SU-76i前史 〜ドイツ軍突撃砲を改造したソビエトの自走砲〜


 捕獲車両を自軍編成に組み込んだり、自走砲に改修したりするのはドイツ軍の十八番というのが通説だが、ソビエト軍もドイツ軍に勝るとも劣らないほど捕獲車両の再利用に熱心であったことが最近発行された「Trophies of Red Army」等、近年の資料で明らかになってきた。ソビエト軍では捕獲車両をそのまま利用したケースが大半であったものの、「SU-76i」の名称で知られている三号突撃砲改修76.2mm砲自走砲のように、(現地改修ではない)公式な改修・武装強化手続きを経て生産された自走砲も存在した。SU-76iは若干の写真及び現存車両があることから意外とよく知られており、前出書籍ではさらにいくつかの未発表写真が発表されたところである。

 一方、同書のSU-76iの項に「SG-122」という未知の自走砲の図面が掲載されているが、英文解説がないことも手伝ってその実態は全く不明のままであった。

 ところが、幸運にも最近入手したAFV News vol.34, No.3に、Karl Brandel氏によるSG-122の記事を発見することができた。この記事はARMADA刊「Strumgeschutz」からの抜粋翻訳を中心としたもので記事自体は2ページに過ぎないが、大変興味深い内容であった。なぜならばSU-76i登場以前の試みとして、SG-122及びその他の捕獲車両を改修した自走砲の存在が明らかにされていたからである。以下、記事の要約。
 

1942年2月下旬〜3月上旬にソビエト第33軍は6台の(捕獲)3号突撃砲を受領した。これらの車両はT-60編成の戦車大隊に組み込まれた。この内の3両はドイツ製24口径75mm砲を搭載した通常型突撃砲だったが、残り3両にはT-34の主砲が搭載されていた(車両A)。これらの車両は1943年に生産が開始されることになるSU-76iとは完全に別の車両である。これら突撃砲はShansky工場にて改修された。

 当時第33軍に所属していた兵の証言によれば、この3台の改修突撃砲以外に、捕獲3号突撃砲に、戦場で損傷したKVから主砲を移設した車両(車両B)もあったとのことである。

 これらの動きとは別に正式なプロジェクトとしてSG-122A(車両C)が計画された目的は、砲兵用牽引車両の慢性的不足に対する対策のひとつとして、牽引火砲を自走化することであった。さらに、76.2mm師団砲の絶対数が不足していたこともあり、自走化の対象となる火砲にM-30 122mm砲が選択されたのである。SG-122Aのデザインは第592工場で行われた。プロトタイプには三号突撃砲C型が使用された。試作車両2台が1942年の4〜5月に製作されたが、捕獲三号突撃砲の数が十分に揃わなかったために正式な生産開始は遅れた。なお、同じ車両にF-34 76.2mm砲を搭載したもの(車両D)も存在した。

 1942年の秋にGKO(国家国防委員会)は、捕獲した三号及び四号戦車車台は全てSU-122/T3(車両E)及びSU-122/T4(車両F)のために使用すべしと決定した。これら車両は1942年12月に部隊配備された。その後、76.2mm砲搭載自走砲として、SU-S-1(車両G)とSU-76i(これが一般的に知られている76.2mm砲搭載自走砲である)も製作された。

 これら車両の生産に関する資料は存在していないものの、少なくとも8台の車両が生産されたと思われる。

 Karl Brandel氏は、この記述に関して以下の疑問点を示している。1)果たしてこの76.2mm自走砲(車両A、B?)の写真は存在するのか、2)Shansky工場はどこにあるのか、3)破損したKVから流用された砲というのは76.2mm砲だったのか152mm砲だったのか、4)SG-122自走砲(車両C)の写真は存在するのか、5)SU-S-1(車両G)、SU-122/T3(車両E)、SU-122/T4(車両F)に関するこれ以外の情報はあるのか、等々。(便宜上、一部に注釈を追加)

 この記事だけでも、前出のSG-122(A?)を含めて7種類の未知の自走砲(車両A〜G)が登場している。モデラーとしては、Brandel氏同様、実車写真の有無に関心が向くことだろう。また、SU-76iは三号戦車ベースのものしか知られていなかったが、GKO決定には四号戦車車台も含まれていることから、SU-76i(及び車両E〜G)に四号戦車車台ベースのものが存在した可能性もある。

 ARMADA等のロシア語で記述された文献には、我々の知らない事実がまだまだ埋もれているようだ。最近ロシアで発行された戦車専門誌Polygon創刊号にもSG-122の記事が掲載された。こちらはSG-122だけの特集なので、さらなる新事実が発表されていると思われるが、残念ながらオールロシア語では如何ともしがたい。記事に挿入された図面は前出二誌と類似のものであるが、これらが工場図面であったことがはじめて明らかになった(キャプションのみ英語併記)。おそらく本車に関して現時点で入手できる画像情報はこの図面のみと思われるが、工場図面の存在は、本車が実際に生産された可能性を強く示唆している。

 これら記事が英語などの我々に馴染みのある言語で読めるようになり、より詳細な情報が得られることに期待したい(Russian Military ZoneでSU-76i及びSG-122(A)の記事が予告されている!)。

【追記(2000年10月)】

 Russian Military Zoneに追加されたSG-122(A)及びSU-76iの記事(参考資料は本項とほぼ同じ)によれば、

SG122(A)
AFV News(左)とPolygon(右)に掲載された図面。Polygonの解説によればこれらは全て工場図面の転写との由。
なお、Russian Military Zoneの図面コーナーにはPolygon掲載の1/35四面図及び各図面のアップが転載されている。

参考資料:「AFV News vol.34 No.3」、「Trophies of Red Amry」、「Polygon #1/2000」

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