ルーマニアのヴェスペモデルからソ連のトラクター「スターリネッツS-65」がリリースされた。ヴェスペの既存ラインナップを考えるに、突然のリリースという感もあるが、渋いアイテム選択は歓迎したい。ヴェスペモデルのその他の魅力的なラインナップは、リトマス試験紙で紹介されているので、適宜参照されたい。
写真1:製品パッケージ。しっかりとして箱に緩衝材入りで梱包されているのは嬉しい。箱の柄はデパートの袋や観光地の名物を連想させる…。
砲兵大国ソ連だけあって、古いイタレリのラッチェブムを始め多くのソ連軍野砲キットが発売されている。さらに野砲を牽引する牽引車までがいくつかキット化されており、アズムットからは大型トラクターのコミンテルンとYA-11が、AERからは(出来はさておき)小型のコムソモレッツが市場に出ている。スターリネッツはその中間のカテゴリーに属するトラクター。記録写真でもしばしば見かけられ、152mm砲(SU-152に車載された型)、203mm砲(装軌式の大型臼砲)、果てはポンツーンブリッジまで牽引している姿を見ることができる。戦場の裏方であるサポート車両は、まとまった資料がないのが常だが、インストによれば前身のS-60(トラクターそのものという感じの車両)は米キャタピラーのトラクターを参考(コピー?ライセンス?)にしたらしく、S-65はその発展系であるそうだ。
写真2:キャビンパーツ。歪みや気泡もなく綺麗に成形されている。
ヴェスペのキットの成形状態は良好で、気泡やひずみは殆ど見られない。エンジン室周辺や操縦室ドア等は別パーツにされ、ドアを開けたり、エンジンを見ることもできるようになっている。記録写真によるとスターリネッツには、クローズドキャビンのタイプとオープンキャビンのタイプのに種類が見受けられる。オープンキャビンのタイプは、いかにもトラクター然しており、それはそれで魅力的だ。残念ながらキットはコンバーチブルにはなっていないが、運転席周りは細かいパーツで再現するようになっているので、オープンキャビンにしても格好はつきそう。エンジンを含め、細かなディテールまで良く再現されているが、実車取材でもしたのだろうか。
写真3:足回りパーツ。
履帯は2種類のレジンパーツを組み合わせて作るようになっている。足回りは比較的単純な形状なので、これで十分再現できるだろう。若干歪んでいるのは熱で簡単に修正できそう。履帯はWW1の戦車のような板状のものだが、一発で綺麗に抜けている。足回りサポートパーツとリターンローラーも一発抜きであるが、逆テーパーが入っており、相当複雑な型抜きをしていると思われる。
写真4:エンジングリルパーツ。グリル上下及び側面にキリル文字の刻印(上と側面は『スターリネッツ』)が見えるだろうか?また、グリル部分にはUTZの刻印もちゃんとついている。レジンの色が違うのは撮影条件によるもので、キットは全て同じ素材。
グリル部分には「スターリネッツ」の刻印などが集中し、実車では良いアクセントになっている。キットでもこの刻印が再現されている。ただし、刻印部分のモールドが若干薄めであり、この部分を生かして下地処理・塗装を施すのは難しそう。ここはもう少しはっきりしたモールドだと良かったかも。グリル部分の表現もおとなし目。裏側にエンジンパーツの一部をモールドしている関係上、このような処理になったのは仕方がないのだが、贅沢を言わせて貰えば、ここはエッチング等でかっちりと再現してもらいたかった。「顔」となる部分だけに、この部分が平凡に仕上がってしまっているのは少し残念。
エンジン室側面板はなぜかキットには含まれていない。実車でも大概は外して運用されているのだが、仮に自作しようとすると、表面にグリルがわんさと付いているので苦労するだろう。
キットには、このほかにエンジンパーツ(これも一発で抜いてある)、細部パーツ、簡単なインストが含まれる。
いよいよ充実してきたソ連製トラクターのキット、残るはSTZ-5(3?)かSTZ-NATIが欲しいところ。ずいぶん前にCommanders Modelから予告されていたが、問い合わせたところ、既に発売予定からは落ちているそうで、他のメーカーからの発売を期待したい。