BT-7A砲塔メモ〜またはアルマダ図面の信憑性〜


 ロシアBT-7快速戦車シリーズの派生型に、短砲身76.2mm砲搭載の火力支援用『BT-7A』というバリエーションがある(Russian Military Zoneによれば生産台数は154台)。

 私が最初にこの車両の存在を知ったのは『SOVIET TANKS AND COMBAT VEHICLES OF WORLD WAR TWO (Arms and Armour Press)』であり、その当時から興味を惹かれていたのだが、少数生産かつ大戦前ロシア戦車ということでそれ以降は特に目立った資料に恵まれず、またベースとなるBT-7はフェアリー製(古い)とアキュリット製(高い)のレジンキットだけだったので、敢えて深く調査するきっかけもなく現在に至っていた。

 ところが、昨年、ロシアのEasternExpressがこのBT-7Aをキット化することが発表され、さらに先日入手した資料にBT-7Aの初出写真が掲載されていたことで、今般この車両に対する興味が再燃したため少し調べてみる気になった。ここでは『BT vol.3(ARMADA)』掲載の3面図に関するいくつかの疑問点について書き留めておく。今回参考にしたのは『4.Panzer-Division on the Eastern Front (1) 1941-1943(Concord)』『BT vol.3(ARMADA)』の2冊だが、これ以外には『Tanks Illustrated: Operation Barbarossa(Arms and Armour Press)』にも放棄されたBT-7Aの写真が掲載されていた。前者(Concord)はドイツ軍中心の戦場写真集であるが、Concord社出版物の常として(撃破・放棄された)ロシア車両の貴重な写真も多い。放棄(?)されたBT-7Aを上面からとらえた戦場写真には正直驚いた。また、本稿には関係ないが対独戦で使用されたT-50の写真も貴重。先般発行されたSchifferのロシア戦車の大冊にしてもそうだが、今後、独側撮影写真によるロシア戦車研究が一層進みそうであり期待大。

 ARMADAの図面についての疑問は、1)砲塔サイズ2)砲塔形状3)砲塔上面ハッチ形状4)砲塔後部機銃架周辺5)砲塔全面機銃架の向きの5点。写真1がアルマダに掲載されている図面の砲塔部分である。


写真1:問題の図面(砲塔部分)。砲塔のサイズは車体幅に比べて小さく描かれていることに注意(通常のBT並)。また、左ハッチ形状(角形)と、前面機銃架が外向きに付いていることにも注目。

1)砲塔サイズ
 アルマダの図面では車体幅に比較して幾分余裕があるように描かれている砲塔の大きさであるが、実車の砲塔は車体幅ぎりぎりまで大型化されている(写真2)。Russian Military Zozeにも砲塔が大型化された旨の記述を発見することができる。

  
写真2(左):Concord(P11)より。実戦で放棄されたBT-7Aの上面。
写真2(右):ARMADA(写真45)より。長砲身76.2mm砲(F32)搭載試作車両の上面。いずれの写真でも砲塔の幅が車体ぎりぎりだということが明らか。

2)砲塔の形状
 T-28に似通った形状として描かれている砲塔形状であるが、実車の後部機銃架周辺はかなり幅が狭くなっている(ARMADA写真45及び写真98参照)。砲塔後半側でかなり絞り込まれているようで、むしろ涙滴型に近い

3)砲塔上面ハッチの形状
 図面上は砲塔左側ハッチはT-28同様の角形であるが、実際は写真2で明らかなように丸形ハッチ(T-26後期馬蹄型砲塔に類似か)。ARMADA(写真45)でもなんとか判別可能。

4)砲塔後部機銃架周辺
 砲塔後部の機銃架周辺は小ハッチになっており、右側ヒンジで開閉可能になっている。小ハッチ自体は後部機銃架より少し広い程度の幅でしかない。T-28砲塔にはこの後部小ハッチはないので、これからもBT-7AがT-28砲塔を流用していないことがわかる(ARMADA写真98も参照のこと。この写真は既発表のもの)。


写真3:Concord(P11)より。後部機銃架周辺ハッチが開いていることが分かる。後部機銃(DT?)自体は取り外されている。この車両が放棄された際に乗員が外した、若しくは独軍側が撤去したのであろう。

5)砲塔前面機銃架の向き
 写真2を始め数枚のショットから、左側機銃は図面のような左寄りではなくて真正面に向いているのが正解だと思う。
 

 本来ならば車体についても詳しく考察すべきであるが、キット発売後に改めて取り組みたい。

"Eastern Expressがアルマダ図面を元にキットを設計しませんように"(と、ここで主張しても詮無いか…)



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